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中戸川 さん(ライター)

「NOマネー」若手農家と市民が実践する新しい農業

「NOマネー」若手農家と市民が実践する新しい農業
 「農業は儲からない」。この世界でよく耳にする言葉だ。物憂げな、あきらめにも似た心境で口走るひとが多い。この世界に身を置く者として、やりきれない思いを抱えていた矢先、あるユニークな取り組みと出会い、大いに考えさせられた。キーワードは「NOマネー」だ。

 千葉県松戸市。農家の花島隼(はなしま・しゅん)さん・綾乃(あやの)さん夫婦の農場「綾善ファーム」には、まだ薄暗い午前5時だというのに、さまざまな世代のひとたちが集まってくる。みな、おもいおもいの野良着をまとっている。秋の気配がただようとある週末、筆者も午前3時に起床して参加した。



 隼さんは34歳、綾乃さんは26歳と若い。1.4haの農場で約100種類の無農薬野菜を栽培し、箱詰めした旬の多彩な野菜を約150軒の会員に定期配送している。いわゆる専業農家だ。サラリーマン家庭出身の隼さんが、農家に生まれた綾乃さんの家に婿入りするかたちで4年前に就農した。

 早朝から花島さんの農場に集まったのは、ここで「農作業に従事するひとびと」だ。「きょうは5種類のニンジンのタネをまきましょうか」「タネがなくなりそうになったら、こちらにありますよ」。隼さんのアドバイスに従い、「農作業に従事するひとびと」が土の中にひとつかみのタネを落としていく。朝日が照りつけはじめる午前8時ごろ、「お疲れ様でした!野菜をどんどん持って帰ってくださいね!」という綾乃さんのかけ声が響き、この日の作業は終了。綾乃さんから振舞われたカステラとウーロン茶を口にしながら、筆者もひと仕事をおえた気分で汗をぬぐった。



「農作業に従事するひと」と聞いて、読者のみなさんはどんなイメージを持つだろうか。農場主に酷使された労働者の悲劇を描いた海外小説(ジョン・スタインベックの二十日鼠と人間)を読んだことがあるが、そんな先入観をもつ読者がいたなら、考え方を改めたほうがいいかもしれない。

 この農場の大きな特徴は「農作業に従事するひと」が無償で労働力を提供している点にある。農業に関心をもつ一般市民が花島さん主宰のLINEに登録しており、好きなときに農作業を手伝うことができる。花島さんが「明日、ジャガイモの収穫をしたいのですが、お手伝いしていただける方いますか?」とLINE上で呼びかけると、「わたし行けます」と手を挙げたりするしくみだ。口コミで広がり、いまでは20人ほどの男女がボランティアとして種まき、草刈り、収穫などあらゆる作業をこなしている。


 
 労働の対価はおカネではなく、無農薬野菜ーー。なぜ、こんな「日本むかしばなし」のような世界が成り立つのだろうか。
 


 この笠をかぶっている男性は千葉県柏市在住の中山さん。友人の紹介で昨年の7月から通っている。午前4時に起き、3時間ほど農場で汗をながすのが週末のスタイルだ。「いま56歳でしょう。自給自足の暮らしを紹介するテレビ番組を見ていて、うらやましくてね。定年まであと9年ですが、そうした暮らしに憧れがあるんです」。人生100年時代のいま、老け込む年齢ではない。「子どもは25歳と23歳。妻も好きなことをしているし、家族サービスって年でもないですしね」。次なる人生のしるべを模索する中、行き着いたのがここだった。農作業をおえたあとの爽快感が趣味のマラソンに似ているという。

 ちなみに、中山さんの本職は千葉県内の病院に勤務する臨床検査技師だ。超音波検査でガンの早期異常を発見する腕前では知られたひとでもある。「隼君に言われるんですよ。『中山さんは細かい作業が得意ですね』って。職業病ですかね」



 「おカネをもらわなくていいのですか?」。中山さんに素朴な疑問をぶつけてみた。筆者が取材当初から抱いていたモヤモヤでもある。

 「だって、おカネをもらうと職業になるじゃないですか。プレッシャーになっちゃいますよ。花島さんご夫婦の明るい雰囲気が好きなんです。無農薬野菜をいただくだけで十分ですよ」

 要するに、農作業を「労働」ではなく、かぎりなく「趣味」ととらえているわけだ。経済的に安定した定職をもっているからこそ、こうした考え方ができるのかもしれない。中山さんと一緒に作業した及川さん(36)は司法書士。「ふだんデスクワークじゃないですか。その反動かもしれません」と話す。高校教師の竹下さん(仮名、56)は「おカネよりも物々交換の方がいいじゃないですか」と楽しそうだ。

 誤解してほしくないが、筆者はおカネを否定しているわけではない。むしろ、おカネは生きていくうえでとても大切だと思っている。強調したいのは、中山さんのようなひとたちが無償労働してくれることによって、農業経営がどれだけ楽になるか、はかり知れない効果があるという点だ。

綾乃さん(左)と隼さん(右)

 「本当に助かっています」と花島隼さん。ここでの全作業を「10」とした場合、隼さんの仕事量は「6」、綾乃さんは「2」、中山さんのようなボランティアは「2」というイメージだそうだ。農業は「きつい、汚い、危険」の3Kといわれ、そうした面をなかなか払拭できないのは確か。ただ、農家からみれば厳しい仕事であっても、市民にすれば「おカネはいらないからやってみたい」という真逆の見方が成り立つのが農業の不思議なところだ。

 ボランティアの効果はどれくらいなのだろう。農水省の調査によると、花島さんと同じような規模の野菜農家の年間総労働時間数は5054時間。この数字をそのままあてはめた場合、花島家では2割にあたる1010時間をボランティアでまかなっている計算になる。時給1000円で換算すると、なんと年間101万円分にもなる。



 話が生臭くなった。ひとつあきらかなのは、実際の花島夫婦は、太陽のように朗らかで生臭さとは無縁ということだ。まちがっても「あれしろ」「これしろ」と上から目線の指示をだすひとたちではない。「また来たいと思ってもらえたら」(綾乃さん)という夫婦のオープンな姿勢が20人の市民を惹きつけている。

花島家にはまもなく2人目の子どもが生まれる。農家と市民の素敵なサイクルが新たな幸せをもたらしているようだ。

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